ニコアンド×しりあがり寿 スペシャル対談
コラボの裏側、かく語りき
世界を独自の視点で眺めながら、それをシュールな笑いに昇華する、しりあがり寿。漫画家としてデビューし、近年では美術館での展示も行うなど、活動の場を広げています。そんなしりあがり寿さんと〈ニコアンド〉がコラボ! 葛飾北斎の浮世絵や、日本最古の漫画とも称される「鳥獣戯画」を大胆にパロディしたグッズは、クスッと笑えるのに、なんだかおしゃれ。そんな不思議な世界観の秘密を〈ニコアンド〉の雑貨を取り仕切るディレクター春山と共に掘り下げます。
-
しりあがり寿
- 1985年単行本『エレキな春』で漫画家としてデビュー。パロディーを中心にした新しいタイプのギャグマンガ家として注目を浴びる。独立後は、幻想的あるいは文学的な作品など次々に発表。新聞の風刺4コママンガから長編ストーリーなど様々なジャンルで独自の活動を続ける一方、近年では映像やアートなど多方面に創作の幅を広げている。
-
春山久美
- ファブリックメーカーのデザイナーとして約7年間勤務した後に、ニコアンドの生活雑貨バイヤーとして入社。その後、ニコアンド生活雑貨担当の商品開発MDとして、コラボ企画・元棚商品の企画やデザイン、また、生産担当と連携し企画進行のスケジュール管理等に携わる。昨年よりニコアンド生活雑貨ディレクターに従事。
笑いの視点を加えることで、
もっと親しみやすいものにする。
ー はじめに、今回しりあがり寿さんとコラボレーションをした経緯を教えてください
春山久美(以下、春山・敬称略):昨年末に〈ニコ アンド〉で「鳥獣戯画」のグッズをリリースしたんですが、ものすごく反響があったんです。それを超えるものをまたやりたくて、いろいろネタ探しをする中で、出会ったのがしりあがりさんの作品でした。葛飾北斎の絵をパロディした作品を見て、「これはおもしろい!」と大興奮したんです。
しりあがり寿(以下、しりあがり・敬称略):へぇ~! そうだったんですね。
春山:勝手に一目惚れしてしまいました(笑)。すぐに「コラボしたい!」と思って、ご連絡を差し上げて。〈ニコアンド〉との相性もいいなと思ったし、年末年始は笑いながら過ごしたいじゃないですか(笑)。
しりあがり:ありがとうございます。ぼくとしては是非とも使ってくださいという感じでしたね(笑)。今回、「鳥獣戯画」もパロディさせてもらいましたが、いつか取り上げたいと思っていたんですよ。遊びがいがあるというかね。
春山:しりあがりさんはデビュー当時から“笑い”をテーマにされていると思うんですが、それはどうしてなんですか?
しりあがり:笑いっていう感情にはウソがないと思うんです。泣かせたり、怒らせたりって意図的にしやすいと思うんですが、笑いはそうはいかない。一度そのネタを使ったら、繰り返しづらいでしょう。だから堪えられないくらい笑っちゃうって、とても正直なことだし、すごいこと。その力というか、人を笑わせるって大変なことだなっていつも思うんです。
ー 笑いというものは人を楽しませる反面、使い方によっては逆の効果を生んでしまう可能性もあります。
しりあがり:その通りですね。ただ、僕は笑いというものは価値をリセットする作用があると思っています。悲しんでいる人を笑わせて元気にしたり、権威あるものの価値を嘲笑してゼロにしたり。ぼくがやっているパロディというものは、どちらかというと後者のほう。敷居が高いものに対して笑いの視点を加えることで、もっと親しみやすいものにする。「鳥獣戯画」や北斎の絵なら、傷つく人もきっといないでしょう(笑)。
春山:しりあがりさんのパロディは、最小の一手で最大の効果を出しているように思います。
しりあがり:そこは意識していることですね。相手の力を利用して投げ技を決める柔道を見ていると、かっこいいなっていう気がするんですよ。
できる限り原画に近くて、
できる限り違う世界観。
ー 今回のコラボでは、12月15日(金)から第一弾として「鳥獣戯画」のシリーズがリリースされ、年明けの1月5日(金)から第二弾として葛飾北斎のパロディシリーズがリリースされます。「鳥獣戯画」のシリーズは、描き下ろしなんですよね。
春山:しりあがりさんにいろいろおねだりをして、アレもコレもってなっちゃったんですけど⋯⋯(苦笑)。
しりあがり:今回すごく勉強になりましたよ。さっき“最小の一手”という話があったけれど、鑑賞者に間違い探しをしてもらうような感覚でパロディ作品をつくっていたんです。今回も実は最初、美術館に飾ることを念頭に置いていろいろとアイデアを考えていたんですが、〈ニコアンド〉さんはお客さん目線で商品をつくっているでしょう? それがすごく新鮮でしたね。自分にはない視点だったから。
ー 今回は「鳥獣戯画」を、「野球」「スナック」「漫才」「ディスコ」というモチーフでパロディしています。
春山:そうですね。これはしりあがりさんが考えてくださったモチーフなんです。
しりあがり:できる限り原画のポーズに近くて、できる限り違う世界観ということを意識しました。動物のポーズを自然に活かした形で描きたくて、ずっと鳥獣戯画を眺めながら生まれてくるものを大切にしたんですよ。これは野球の動きに近いな、とかね(笑)。
春山:ディスコとかすごいなぁって。そう来たか! と思いましたよ。
しりあがり:あれはちょっと力技ですけどね(笑)。
ー 「鳥獣戯画」としりあがりさんの相性もすごくいいですよね。ファニーな動物たちが、さらに愉快に見えるというか。
しりあがり:そうかもしれませんね。だけど「鳥獣戯画」はいろんなところでパロディされているものだから、どこで自分らしさを出すかというところに苦労しました。
春山:今回は〈ニコアンド〉ではおなじみの日常的なグッズに落とし込んでみました。中でも最近はサウナブームなので、サウナハットやマット、それにサウナバッグなどもつくってみたんです。
しりあがり:むかしはよくサウナに行ってましたけど、最近は逆にカラダがしんどくなっちゃうから行ってないですね(笑)
素敵なものをより魅力的に
アウトプットするのが理想。
ー 一方で、第二弾としてリリースされる北斎のパロディは、原画がそもそもすごくポップですよね。だからこそ扱いやすいというのもあるのでしょうか。
春山:しりあがりさんにいろいろおねだりをして、アレもコレもってなっちゃったんですけど⋯⋯(苦笑)。
しりあがり:北斎の絵は、構図が強いんですよ。それを崩さなければ大体北斎になっちゃう。だからラクですね(笑)。
春山:私はカレーライスのやつが好きですね。「え? カレー!?」って(笑)。
しりあがり:これは最後のほうにつくったやつで、その頃はもう原画がカレーにしか見えなくなってて(笑)。
春山:誰もが知る絵だから、より笑えちゃうんです。わかりやすいし、入りやすいですよね。たとえ浮世絵になじみがなくても。
ー それをグッズに落とし込むときに意識されたことはあるんですか?
春山:インテリアに馴染むものがいいなと思いましたね。たとえばラグとか、座布団とか、今回は初めてアートパネルもつくったんです。そうしたものに落とし込んで、日本人のお客さまはもちろん、海外のお客さまにも届けたいという気持ちがあります。
しりあがり:ぼくはこのグッズを見させてもらって、ジャガード織りにされているのがすごくうれしかったですよ。高級感が生まれているから。
春山:せっかくのおもしろい作品をプリントで表現して、平坦にすることはしたくなくて。素敵なものを、より魅力的にするのはこちらの役割だと思ったので、一部のアイテムはジャガード織りでつくってみたんです。
しりあがり:北斎にしても、「鳥獣戯画」にしても、むかしの絵だから和紙でつくろうっていう発想になるけど、今回はジャガード織りだもん。先ほども話しましたけど、自分の頭が凝り固まってたなって思いましたよ。グッズになると、すごく新鮮な見え方がするから。だから春山さんにいろいろとアイデアやアドバイスをいただけたのがよかった。ぼくはオリジナルにこだわりすぎていたなぁって反省しました。
情報が何層にもつらなって、
「だんだんと「鳥獣戯画」に見えてくる。
ー おふたりは個人的に気に入っているグッズや絵はありますか?
春山:ひとつに絞るのが難しいくらいどれも好きなんですけど、私はやっぱりジャガード織りのアイテムがお気に入りですね。とくにマルチカバーはお部屋に飾ってもいいし、ソファにかけてもいいし、公園に持っていってもいい。いろんな使い方ができそうだなって。
しりあがり:これはたとえ北斎を知らなくても欲しくなりますよね。すごくおしゃれに見えるから。
ー しりあがりさんのお気に入りは??
しりあがり:ぼくはね、「鳥獣戯画」の“野球”と“ディスコ”の絵が気に入ってますね。世界観を拡げているなぁって我ながら思うんですよ。「このウサギ、どっかで見たことあるなぁ」ってみんな思うはずなんです。それでよく見ると「鳥獣戯画だ!」って気づく。その思考の流れみたいなものを上手に表現できたような気がします。情報のレイヤーが何層にも重なっていて、「鳥獣戯画」じゃないけど「鳥獣戯画」になってる、というかね。そのバランス感が気に入ってます。本当に楽しかったですよ。
春山:私たちもです。社内ではもちろん、既にお客さまからも反響をいただいていますね。
ー もし2回目のコラボレーションがあるとしたら、どんなことをやりたいですか?
しりあがり:もう言われるがままにやりますよ、どんどんお題をください(笑)。お客さんからの視点をお持ちだから、そうゆうのをもっと教えて欲しいなって思います。
春山:いやいや、しりあがりさんの作品があってこそなので。ちなみに次にコラボするなら何がいいですかね?
しりあがり:ぼくはずっと「“侘び寂び”のつぎは何かな」って考えているんですよ。“侘び”っていうのは空間的に足りないことで、“寂び”っていうのは時間が経って古くなることをいうんです。つまりは三次元と四次元のことを語った言葉なんですよね。
だからつぎは一次元、二次元の世界観なんじゃないかと思って。「とほほ⋯⋯」って漫画とかでもよく使われますけど、その「⋯」がまさにそれなんじゃないかって感じていて。
ー “間”ということですか?
しりあがり:そうそうそれを笑いに変えるにはどうしたらいいか。そんなことを考えたりしてます。それを〈ニコアンド〉でグッズにするとかどうですか?
春山:すごく難しいお題がいきなり出ましたね(笑)。
しりあがり:いまぼくが着ているTシャツはまさにそれなんですよ。墨絵だから二次元で侘び寂びを表現していて、とほほ⋯⋯感もあるでしょう。
春山:なるほど! いいかもしれませんね!
しりあがり:ぜひ、また今度コラボさせてください(笑)。
アートワークギャラリー
今回のコラボアイテムに使用された、
しりあがり寿さんによるアートワークを一挙にご紹介。
Text:Yuichiro Tsuji
Web Design:DENBAK-FANO DESIGN
Edit:Masaya Umiyama